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仙台高等裁判所 昭和24年(ラ)14号 決定 1953年4月10日

抗告人 山口二郎

利害関係人

申立人 山口よね

主文

前記山口富次郎の遺言を確認する旨の原審判を取消す。

理由

本件抗告理由の要旨は、

一、本件遺言状は法定の遺言の方式を備えない違法のものであるから、仮令本人の真意に出たものとしてもこれを確認すべきでない。即ち、

(イ)  本件遺言状は特別方式のものであるが、遺言状作成の昭和二十三年七月八日には富次郎はいまだ死亡の危急に迫つていなかつた。

(ロ)  死亡の危急に迫つた者のする特別方式の遺言は証人三人以上の立合を以て遺言者が証人の一人に遺言の趣旨を口授し、口授を受けた者がこれを筆記して遺言者及び他の証人に読聞かせ、その場で証人が各自署名押印しなければならない。然るに本件の遺言状は右の方式によつて作られたものではなく、証人の住所に持廻つて署名押印を得たものである。

(ハ)  なお証人宅に持廻つて署名押印を得た後に、遺言状の白地部分に遺贈物件の表示として「建物居宅一棟、風呂場一棟、馬舍一棟、物置一棟以上造作付及家財道具一切」と書加えた。

二、本件は山口よねから昭和二十三年九月二日原裁判所に、同年七月八日に作られた前記遺言状の検認を申請したものであつて、遺言の確認を求めたものではない。しかも右申請は遺言確認請求についての法定期間経過後にされたものである。仮令確認の審判を得てもそれは違法無効であるから確認を求める実益はない。以上の次第であるから本件確認審判の取消を求めるというのである。案ずるに、本件記録に徴すると、遺言者山口富次郎は昭和二十三年八月二十二日死亡したのであるが、同人の妻山口よねは右富次郎の封印ある遺言書を発見したとの理由で、同年九月四日、当時の大河原家事審判所に右遺言書の検認を申請し、同審判所は同年十一月一日遺言書を開封して検認したことが明らかである。然るに封緘されていた右山口富次郎の遺言書は民法第九百七十六条による特別方式によるものと認められるような形式のものであつた関係上、原裁判所は更に進んで右の遺言が遺言書の真意に出たものかどうかの点を調査した上、本件確認の審判をするに至つたものと推測し得られる。しかし山口よねの本件申請が遺言書の検認だけでなく、遺言の確認を求める趣旨までも含むものとは解し難いのみならず、仮にかく解し得るにしても、民法第九百七十六条第二項の規定によると、同条第一項の規定による特別方式の遺言については遺言の日から二十日以内に証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所(右申請当時は家事審判所)に請求して、その確認を得なければ遺言としての効力がないものと解し得られる。然るに山口よねの右申請は遺言書の作成日である昭和二十三年七月八日から二十日以上を経過した同年九月四日にされたものであるから、右法定の期間経過後であることは明白であり、法定期間内に家庭裁判所に確認を請求して確認を得ることは、右法条による特別法式の遺言の効力発生要件と解すべきであるからして、確認の請求が法定期間経過後にされた場合には仮令確認の審判を得てもそれは右の特別方式による遺言の効力発生要件を充足するものではなく、従つてかかる確認の請求はその実益がないものとして却下すべきものというべきである。

以上の次第であるから原裁判所のした本件遺言確認の審判は失当として取消を免れず、本件抗告はその理由があるものとせざるを得ない。

よつて、主文のとおり決定する。

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